人材開発支援助成金は、従業員のスキルアップを促進するための重要な助成制度です。
本記事では、6つのコース内容や支給額、申請手続き、メリット・デメリットを詳しく解説します。
2024年4月の制度改正で、企業ニーズに応じた改善がおこなわれ、長期教育訓練休暇の拡充や自発的職業能力開発訓練の要件が緩和されました。
申請手続きの簡素化や電子申請の導入により、これまで以上に活用しやすい制度へと進化しています。
経費助成や賃金助成を通じて、企業の人材育成を強力にバックアップする本制度について、助成金を最大限活用し、企業の成長をサポートする具体的な方法を解説します。
人材開発支援助成金は、企業の人材育成を促進するための国の助成制度です。
2024年4月からの制度改正により、より使いやすい制度として生まれ変わりました。
事業主が従業員に対して職務に関連した専門的な知識および技能を習得させるための職業訓練などを実施した際に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成される制度です。
eラーニングや通信教育なども対象となり、デジタル人材の育成からリスキリングまで、現代のニーズに応じた幅広い人材育成をサポートします。
助成金の活用で、企業は人材育成にかかるコストを大幅に削減できます。
例えば、中小企業の場合、訓練経費の最大100%、賃金の一部として1時間あたり最大960円の助成金が受け取り可能です。
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(人材育成支援コース)詳細版(R6.4.1~)
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(教育訓練休暇等付与コース)詳細版(R6.4.1~)
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(人への投資促進コース)詳細版(R6.10.1~)
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(事業展開等リスキリング支援コース)詳細版(R6.10.1~)
本助成金は、雇用保険適用事業所であれば、業種や企業規模を問わず申請可能です。
ただし、以下の要件を満たす必要があります。
特に製造業・IT産業・サービス業など、技術革新や市場変化への対応が求められる業種は活用しやすい制度設計です。
また、建設業向けには専用のコースも用意されており、業種特性に応じた支援を受けられます。
人材開発支援助成金は、企業の多様な人材育成ニーズに対応するため、6つの異なるコースで構成されています。
各コースは対象者や支給額が異なり、企業の状況や目的に応じて選択可能です。
2024年4月からの制度改正により、より使いやすい内容となっています。
ぜひ以下の内容を参考に、自社に最適なコースをお選びください。
人材育成支援コースは、従業員のスキル向上や専門的な知識の習得を目的とした訓練を支援するコースです。
このコースは、10時間以上のOFF₋JT(職場外訓練)やOJT(職場内訓練)をおこなう企業に対して助成金を支給します。
1年間で最大1,000万円までの助成を受けられ、広範囲にわたる研修プログラムが対象です。
中小企業では、従業員のスキルアップを図る際にこのコースの利用が多く、費用対効果が非常に高いことが特徴です。
認定実習併用職業訓練や有期実習型訓練なども対象で、企業が計画的に人材を育成するために最適な選択肢といえるでしょう。
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(人材育成支援コース)詳細版(R6.4.1~)
教育訓練休暇等付与コースは、企業が従業員に対して有給の教育訓練休暇を付与した場合に、助成金を受け取れるコースです。
このコースでは、賃金要件を満たした場合に最大36万円、基本的には30万円が定額で支給されます。
従業員が新しいスキルや知識を習得するための教育訓練休暇を取得できる仕組みを提供し、企業の負担を軽減します。
例えば、企業が従業員に対して3年間で5日以上の有給教育訓練休暇を提供した場合、その企業はこの助成金の対象です。
この助成金は、従業員がスキルアップのために十分な時間を確保できるよう支援し、企業もその期間中の賃金負担を軽減できるため、双方にとって大きなメリットがあります。
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(教育訓練休暇等付与コース)詳細版(R6.4.1~)
建設労働者認定訓練コースは、建設業に従事する従業員を対象とした訓練をサポートするためのコースです。
このコースでは、建設業の特定の職種に必要なスキルや資格を取得するための訓練が助成対象で、年間最大1,000万円までの賃金補助や資格手当が支給されます。
建設現場での業務効率を向上させ、専門スキルの向上を図るために設計されていて、安全性や技術力が求められる作業に対して重要な役割を果たしています。
建設業界においては、資格の取得で従業員のキャリアアップが期待できるため、積極的に活用するとよいでしょう。
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース)
建設労働者技能実習コースは、建設現場での実地訓練をおこなう企業に対して助成金を支給するコースです。
このコースでは、賃金助成や資格手当が含まれ、年間500万円を上限に支給されます。
内容としては、現場での即戦力を育成するための実践的な訓練が中心です。
この助成金の活用で、企業は従業員に実際の現場で必要な技術や知識を効率的に習得させることが可能です。
技能実習を通じて、従業員のスキルアップを図ることができるため、多くの企業が活用しています。
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース)
人への投資促進コースは、デジタルスキルの習得や、成長分野の人材育成を目的とした訓練を支援するコースです。
このコースでは、企業が従業員に高度なデジタル技術を習得させるための訓練や、IT未経験者を即戦力化するための訓練に対して、最大2,500万円まで助成されます。
さらに、成長分野以外の訓練や自発的職業能力開発訓練に対応。
成長分野の人材訓練には最大1,000万円が支給されます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する企業にとって、大きな支援になるでしょう。
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(人への投資促進コース)詳細版(R6.10.1~)
事業展開等リスキリング支援コースは、企業が新たな事業展開をおこなう際に必要となるスキルや知識を、従業員に習得させるための訓練を支援するコースです。
このコースでは、最大1億円の助成金が支給されるため、大規模な研修やスキル再教育(リスキリング)をおこなう企業に最適です。
特徴は、企業が新たな分野に進出する際のスキルギャップを埋めるためのリスキリングを強力に支援する点にあります。
例えば、DXやGXに対応する新スキルを従業員に習得させる際、この助成金を活用すれば、コスト軽減と効果的な人材育成を同時に実現できます。
事業規模の拡大や新たな事業への挑戦を計画している企業にとって、このコースは非常に有効でしょう。
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(事業展開等リスキリング支援コース)詳細版(R6.10.1~)
人材開発支援助成金の各コースにおいて、1事業者が1年度に受給できる最大額は次のとおりです。
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(人材育成支援コース)詳細版(R6.4.1~)
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(教育訓練休暇等付与コース)詳細版(R6.4.1~)
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(人への投資促進コース)詳細版(R6.10.1~)
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金 令和6年度版パンフレット(事業展開等リスキリング支援コース)詳細版(R6.10.1~)
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金(建設労働者認定訓練コース)
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース)
これらの上限額は、各コースの特性や目的に応じて設定されています。
例えば、事業展開等リスキリング支援コースの上限額が高いのは、大規模な事業転換や新規事業展開にともなう人材育成を支援するためです。
一方で、教育訓練休暇等付与コースの定額支給は、制度の導入自体を奨励する目的があります。
各コースには固有の要件があり、実際の受給額は企業規模、訓練内容や対象従業員数に応じて変動するでしょう。
また、一部のコースでは賃金要件や資格等手当要件を満たすことで追加の助成を受けられる場合もあります。
自社の人材育成ニーズに合わせて最適なコースを選択し、効果的に助成金を活用しましょう。
キャリアアップ助成金と人材開発支援助成金は、企業の従業員育成をサポートする点で共通していますが、対象や目的が異なります。
助成金の種類 | 対象 | 目的 | 適している場合 | 具体例 |
キャリア アップ助成金 | 非正規雇用の労働者 | 正社員化 処遇改善 | 正社員化を促進したい場合 | IT企業が非正規雇用者を正社員化 |
人材開発 支援助成金 | 企業の従業員全般 | 職業訓練 スキル向上 | 従業員のスキル向上やリスキリングが必要な場合 | 新技術に対応するためのリスキリング |
【参考】厚生労働省 キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)
「キャリアアップ助成金」は、非正規雇用労働者の正社員化や、処遇改善をおこなう事業主に対する助成金です。
一方で「人材開発支援助成金」は、企業が従業員に対しておこなう職業訓練やスキル向上を支援する助成金です。
例えば、正社員化を促進したい場合はキャリアアップ助成金が適していますが、従業員のスキル向上やリスキリングが必要な場合は、人材開発支援助成金を選択しましょう。
具体例として、IT企業が非正規雇用者を正社員化したい場合にはキャリアアップ助成金が有効です。
一方、新技術に対応するためのリスキリングが必要な場合、人材開発支援助成金の利用で訓練費用をカバーできます。
人材開発支援助成金の申請手続きは、事前の計画準備から申請書類の提出、審査を経て支給決定に至るまで、いくつかの段階に分かれています。
この助成金を確実に受給するためには、各プロセスを正しく理解し、準備を進めることが重要です。
まず、助成金申請の第一歩として、対象となる訓練の詳細をまとめた「訓練実施計画書」を作成し、労働局に提出しましょう。
訓練を始める前にこの計画書を提出し、助成金の対象となる訓練であることを確認してもらいます。
この段階では、対象となる労働者の情報や、訓練の内容、期間、費用に関する詳細な情報が必要です。
次に、訓練が完了した後、賃金支給証拠や訓練費用に関する領収書など、訓練実施に関連するすべての書類をそろえて、支給申請をおこないます。
支給申請書は、訓練終了後に作成され、証拠書類を添付して再度労働局に提出します。
書類不備や提出期限を守ることが非常に重要で、これらが守られない場合、助成金が支給されない可能性があります。
また、申請手続きのなかで、労働局が提出された書類を審査し、問題がなければ助成金の支給が決定されます。
不備を防ぐための具体的なアドバイスとして、事前に書類のリストを確認し、期限内にすべての書類をそろえることが成功のポイントです。
申請書類の提出から支給決定までの流れを、詳しくみていきましょう。
まず、どのような人材を育成したいのか、その目標や内容を明確化し、それに沿った「事業内職業能力開発計画」を策定します。この計画に基づき、具体的な訓練内容やスケジュールなどを盛り込んだ「職業訓練実施計画届」を作成します。必要な書類を添付し、訓練開始日の1ヵ月前までに労働局へ提出しましょう。
計画に基づき、従業員への訓練を実施します。訓練は、OFF₋JT(集合研修、eラーニングなど)とOJT(職場内訓練)を組み合わせることも可能です。訓練期間中は、従業員に対して適切な賃金を支払う必要があります。
訓練終了後「支給申請書」を労働局へ提出します。申請期間は、訓練終了日の翌日から2ヵ月以内です。
申請に必要な書類は以下のとおりです。
労働局は、提出された申請書類に基づき、支給要件を満たしているかどうかを審査します。審査には時間がかかる場合もあるため、余裕を持った申請が大切です。審査を通過すると、助成金の支給が決定され、指定の口座に助成金が振り込まれます。
申請を成功させるためのポイント
人材開発支援助成金の活用で、従業員のスキルアップを促進し、企業の成長を図りましょう。
人材開発支援助成金は多くの企業にとって有益な制度ですが、利用にはいくつかのデメリットやリスクも存在します。
まず、申請手続きが複雑で時間がかかる点はデメリットです。
企業は訓練計画の作成から支給申請まで多くの書類を準備する必要があり、労働局への提出や審査にも時間を要します。
そのため、書類不備や提出期限の遅れがあると、助成金の受給が遅れる可能性があります。
また、訓練を実施したあとに賃金支給証明や領収書などを提出し、労働局での審査を経て支給が決定されるため、企業は即時に資金を受け取れない場合があります。
このため、資金繰りが厳しい中小企業にとっては、一時的な資金負担が生じることもあります。
デメリットを最小限におさえるためには、早めのスケジュール設定と、必要書類の準備です。
また、外部の専門家やコンサルタントを活用して申請手続きをスムーズに進めることで、リスクを軽減できます。
企業が抱える課題に応じて、計画的な対応が求められるでしょう。
人材開発支援助成金は、法改正や社会情勢の変化に対応するため、定期的に見直しがおこなわれています。
助成金の制度変更は、企業の人材育成計画に大きな影響を与える可能性があるため、最新の情報に注意を払う必要があります。
主な変更点としては、
などがあげられます。
例えば、近年では、
といった変更がおこなわれました。
企業は、最新の制度を活用するために、常に情報収集を心がけ、必要に応じて人材育成計画を見直すなどの準備をしましょう。
【参考】厚生労働省 人材開発支援助成金を利用しやすくするため、令和6年4月1日から制度の見直しを行いました。
人材開発支援助成金は、企業が従業員のスキルアップを支援し、経済的な負担を軽減するための重要な制度です。
各コースごとに支給内容や対象者が異なり、企業のニーズに応じた最適なコースを選ぶことで、より効果的な人材育成が可能です。
申請手続きには時間と手間がかかるものの、事前の準備で、助成金を最大限に活用できます。
最新の制度変更にも注意を払い、企業の成長と従業員のスキル向上を支援するこの制度を積極的に活用しましょう。
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