事業再構築補助金は、企業の成長と市場変化への適応を支援する制度です。
なかでも「サプライチェーン強靱化枠」は、サプライチェーンの強化と安定化を目指す企業に特化した枠組みです。
この枠の目的は、国内生産体制の整備や供給網の多様化にあります。
本記事では、補助金額・申請要件・必要書類など、制度の詳細をわかりやすく解説しながら、効果的な活用方法や申請のポイントも説明します。
サプライチェーンの強化を検討中の中小企業経営者や、事業再構築に関心のある方は、ぜひ最後までご覧ください。
事業再構築補助金は、中小企業や中堅企業が、経済社会の変化に対応するための事業再構築を支援する制度です。
企業の新たな市場への進出・事業転換・業種転換・事業再編などの大胆な事業変革の挑戦を支援し、日本経済全体の構造転換を促進させることが目的です。
新たな事業の立ち上げに必要な設備投資、システム構築や研修費用など、幅広い経費が補助対象です。
企業は自己資金だけでは困難だった大規模な投資や事業変革を、リスクを抑えながら実施できます。
事業再構築補助金には、企業のさまざまな状況や目的に応じた多様な枠組みが設けられています。
例えば、成長分野への進出を支援する「成長分野進出枠」、新型コロナウイルス感染症の影響からの回復を支援する「コロナ回復加速化枠」、そして、本記事で詳しく解説する「サプライチェーン強靱化枠」などがあります。
これらの枠組みは、それぞれ異なる要件や補助率が設定されており、企業は自社の状況や事業計画に最適な枠組みを選択して、補助金制度を活用可能です。
【参考】経済産業省 事業再構築補助⾦(第12回)【サプライチェーン強靱化枠】の概要
サプライチェーン強靱化枠は、国内のサプライチェーンの強靭化を目的とした事業再構築補助金の枠組みです。
ここでいう強靭化とは「予期せぬ事態が発生した場合でも、事業継続が可能な、より強固で柔軟なサプライチェーンを構築する」ことを意味します。
具体的には、以下のような取り組みがあげられます。
近年、自然災害や感染症の流行など、予期せぬ事態によってサプライチェーンが断絶されるリスクが高まっています。
また、国際情勢の変化による供給不安や、特定の国への依存によるリスクも顕在化しています。
そこで経済産業省は、国内企業がより強靭なサプライチェーンを構築できるよう、サプライチェーン強靱化枠を設けました。
この枠組みでは、以下の2つの事業類型を支援対象としています。
これらの事業を支援し、国内の生産体制を強化させ、サプライチェーンの安定化を図ることが目的です。
具体的には、以下のような効果が期待されています。
【参考】経済産業省 事業再構築補助⾦(第12回)【サプライチェーン強靱化枠】の概要 【参考】中小企業庁 事業再構築補助金【サプライチェーン強靱化枠】公募要領(第12回)
サプライチェーン強靱化枠は、企業がより安定した事業基盤を構築し、持続的な成長を遂げるために重要な役割を担っています。
サプライチェーン強靱化枠では「中小企業者等」と「中堅企業等」に対して、それぞれ以下の補助金額と補助率が適用されます。
区分 | 補助金額 | 補助率 |
中小企業者等 | 1,000万円〜3億円以内(建物費がある場合は5億円以内) | 1/2 |
中堅企業等 | 1,000万円〜3億円以内(建物費がある場合は5億円以内) | 1/3 |
【参考】中小企業庁 事業再構築補助金【サプライチェーン強靱化枠】公募要領(第12回)
【中小企業者等とは】
資本金が3億円以下の企業、または従業員数が300人以下の企業です。
【中堅企業等とは】
資本金が10億円未満の企業、または従業員数が2,000人以下の企業です。
【補助対象になる経費】
ただし、サプライチェーン強靱化枠では、生産アップを目的とした機械装置の導入が必須です。
建物費のみの案件は補助対象外なので、注意しましょう。
この補助金を活用すると、企業はサプライチェーンの強靭化に必要な設備投資を、少ない自己負担でおこなうことができます。
サプライチェーン強靱化枠では、国内サプライチェーンの強靭化に貢献する幅広い事業が対象です。
具体的には、以下のような取り組みがあげられます。
製造業においては、これまで海外の工場で製造していた製品や部品の生産を国内に移転・集約するため、国内に新たな工場を建設したり、既存の工場を拡張したりする動きが活発化しています。
これにより、国際情勢や災害による供給途絶のリスクを低減し、安定的な製品供給体制を確立できるでしょう。
また、地域経済の活性化に資する事業も重要な対象です。
地域内で資源を循環させ、地元の雇用を創出し、より強固なサプライチェーンの構築が期待されます。
さらに、これらの取り組みを加速させるため、IoTやAIなどの先端技術を導入し、製造プロセスの効率化や品質向上を図る事業も積極的に支援されます。
これまで海外に頼っていた製品の生産を国内に戻し、国内生産能力を強化する事業も対象です。
例えば、以下のような取り組みが考えられます。
これらの取り組みによって、海外からの調達リスクを低減し、安定的な供給体制が構築できます。
特定の国に依存した供給網を見直し、調達先を複数国に分散させることで、供給網の強靭化を図る事業も対象です。
例えば、以下のような取り組みが考えられます。
これらの取り組みによって、特定の国の政治的リスクや経済状況に左右されることなく、安定して原材料や部品を調達できます。
これらの例以外にも、サプライチェーンの強靭化に貢献するさまざまな事業が対象です。
重要なのは、事業を通じて国内のサプライチェーンを強化し、安定的な供給体制を構築することです。
自社の事業内容を精査し、サプライチェーン強靱化枠の活用を検討してみましょう。
サプライチェーン強靱化枠に申請するには、いくつかの要件を満たす必要があります。
主な要件は以下のとおりです。
申請要件 | 内容 |
事業再構築要件 | 事業が「国内回帰」または「地域サプライチェーン維持・強靱化」の定義に該当すること |
金融機関の要件 | 事業計画について、金融機関または認定経営革新等支援機関の確認を受けていること |
付加価値額要件 | 補助事業終了後3〜5年で、付加価値額または従業員一人あたりの付加価値額の年平均成長率を5.0%以上増加させる計画にすること |
国内増産要請要件 | 取引先から国内での生産(増産)要請があること |
市場拡大要件 | 取り組む事業が、過去〜今後のいずれか10年間で市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属していること |
デジタル要件 | 経済産業省のDX推進指標による自己診断結果をIPAに提出し、IPAが実施する「SECURITY ACTION」の「★★二つ星」宣言をおこなっていること |
事業場内最低賃金要件 | 交付決定時点で、設備投資する事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高いこと |
給与総額増加要件 | 事業終了後3〜5年で、給与支給総額を年平均成長率2%以上増加させる計画にすること |
パートナーシップ構築宣言要件 | 「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトにて宣言を公表していること |
【参考】経済産業省 事業再構築補助⾦(第12回)【サプライチェーン強靱化枠】の概要 【参考】中小企業庁 事業再構築補助金【サプライチェーン強靱化枠】公募要領(第12回)
これらの要件を満たしているかどうか、申請前に確認しましょう。
また、審査では以下の点も重要視されます。
申請要件を満たし、審査のポイントをおさえた事業計画を作成することで、採択の可能性を高められるでしょう。
サプライチェーン強靱化枠の申請は、まず電子申請システム「jGrants」を利用しておこないます。
申請にあたっては「GビズIDプライムアカウント」の取得が必須です。
申請手続きの流れとしては、まず公募要領をよく読み、自社の事業計画が補助対象か確認します。
その後、事業計画書を作成し、必要な書類をそろえて電子申請システムで提出します。
申請期間内にすべての手続きを完了する必要があります。
申請書類は多岐にわたるため、計画的に準備を進めることが重要です。
特に、事業計画書は審査において最も重要な書類となるため、企業の現状分析や事業計画の内容、目標達成の道筋などを具体的に記載する必要があります。
また、各書類には細かな規定や様式があるため、公募要領をよく確認し、不備がないように注意しましょう。
申請に必要な基本書類は、主に以下のとおりです。
【参考】中小企業庁 事業再構築補助金【サプライチェーン強靱化枠】公募要領(第12回)
【参考】中小企業庁 事業再構築補助金【サプライチェーン強靱化枠を除く】公募要領(第12回)
これらの書類は、申請者共通で提出が求められる書類です。
サプライチェーン強靱化枠では、上記の基本書類に加えて、以下の書類の提出が必要です。
書類・要件 | 内容 |
海外製造等要件を満たすことを説明する書類 | 国内回帰を選択した場合に必要 |
地域不可欠性要件を満たすことを説明する書類 | 地域サプライチェーン維持・強靱化を選択した場合に必要 |
取引先からの生産(増産)要請を証明する書類 | 生産(増産)要請に関する証明書 |
市場拡大要件を満たすことを説明する書類 | 取り組む事業が市場規模が10%以上拡大する業種・業態に属することを示す書類 |
給与総額増加要件を満たすことを説明する書類 | 賃金引上げ計画の誓約書 |
事業場内最低賃金要件を満たすことを説明する書類 | 事業場内最低賃金要件に係る雇用計画の誓約書 |
先進性を有する設備を導入することを説明する書類 | 先進性を有する設備を導入することを証明する書類 |
DX推進指標を活用した自己診断結果 | DX推進指標の自己診断結果をIPAに提出した証明 |
SECURITY ACTIONの「★★二つ星」の宣言 | IPAが実施するSECURITY ACTIONの二つ星宣言をおこなった証明 |
連携の必要性を示す書類(代表申請者用) | 複数の事業者が連携して事業に取り組む場合に必要 |
【参考】中小企業庁 事業再構築補助金【サプライチェーン強靱化枠】公募要領(第12回)
これらの書類は、申請する事業内容によって提出書類が異なりますので、公募要領を必ず事前によく確認してください。
書類の不備は申請却下に起因します。
事業再構築補助金のサプライチェーン強靱化枠を最大限に活用するには、自社の現状と課題を正確に把握し、補助金の目的と合致する明確な事業計画を策定しましょう。
単に既存事業を維持するのではなく、大胆な事業再構築に挑戦する姿勢が、審査で高く評価されるポイントです。
事業計画作成においては、次の点に注意しましょう。
具体的な数値目標の設定 | 売上高・利益率・生産量など、達成すべき目標を明確に数値化し、その根拠を示す |
実現可能な計画の策定 | 資金調達・人材確保・技術力など、事業を実際に進めるための現実的な計画を立てる |
市場分析の徹底 | ターゲット市場の動向を正確に把握し、自社の強みを活かせる戦略を立案する |
サプライチェーンの課題の明確化 | 補助金によって解決したい課題を具体的に示し、その解決策を提示する |
金融機関などとの連携 | 事業計画の実現可能性を高めるため、金融機関や認定支援機関の助言を積極的に取り入れる |
また、交付決定後も、事業計画の進捗状況を定期的に確認し、必要に応じて見直しましょう。
補助金は、あくまで事業再構築を支援する手段で、その活用を最大限にするためには、企業の主体的な取り組みが不可欠です。
補助金を効果的に活用し、企業の持続的な成長を実現するためには、綿密な計画と実行力が求められます。
本記事では、事業再構築補助金の「サプライチェーン強靱化枠」を、その概要から申請要件、具体的な事業例、そして必要な書類までを詳しく解説してきました。
この補助金は、激変する世界情勢や市場環境に対応するため、企業のサプライチェーンの強靭化を支援することを目的としています。
特に、海外への依存度が高い生産体制からの脱却を目指す企業や、地域経済の活性化に貢献したいと考える企業にとって、この枠組みは有効な手段となるでしょう。
国内生産拠点の整備や供給網の多角化は、企業の事業継続性を高めるだけでなく、より持続可能で強固な経営基盤の構築にもつながります。
また、本補助金は、企業の事業再構築を単に支援するだけでなく、最新技術の導入や生産体制の効率化も促進します。
これにより、企業は国際競争力を高め、より一層の成長を遂げることが期待できるでしょう。
サプライチェーン強靱化枠の活用は、企業の将来を大きく左右する重要な決断です。
貴社の事業基盤を強化し、新たな成長への一歩を踏み出しましょう。
補助金申請は、資金調達の一つの有効な手段ですが、申請手続きの複雑さや必要書類の多さから、申請を諦めてしまう企業も少なくありません。
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